lasciva blog

開発して得た知見やwebビジネスのストック

「チャイナ・イノベーション データを制する者は世界を制する」を読んだ

目的、モチベーション

  • 中国のIT企業の歴史を知りたかった
  • 最近は日本でもキャッシュレスが押し進められていて中国企業を参考にしていると思い、そのケーススタディを知りたかった

全体の感想

アリババやWeChatの歴史を中心に俯瞰できてよかった。
海外規制してるから中国は国内の大きなサービスが育ってるという印象を持っていたが、昼夜問わずハードに働いたり、学術研究に投資して優秀な人材を確保したりするなど、成功すべくして成功してるんだなと思った。
中国政府は規制に対して厳しい印象を持っていたが、緩やかにその事業が世間にどのような影響を与えるか様子を見て、事業者と連携しながら規制しているのも印象的だった。

キャッシュレスを制するには、オンラインと連動してクーポンを配布したり、ミニプログラムを提供するなどして利便性を確保して、オフラインとの境界を抑えるのが重要なのかなと思った。
そこで得たデータを元に信用情報を構築して、新たなサービスも提供できる。
日本でのキャッシュレスキャンペーンは少し不毛だなと思っていたが、それで一大ブームになって定着するという側面もあるので、一面的には判断できないとも思った。

中国のITの現状や歴史をあまり詳しくなくて、アリババやWeChatを中心に中国のFintech事情を知りたい人にはオススメです。

目次

概要のメモ

序章 米中貿易戦争とチャイナ・イノベーション

第1章 習近平国家主席とデジタル強国路線

国策として推し進めてる。 アメリカから制裁を受けたり、若者の就職先がないことの解決策の一つとして、国が起業やイノベーションを支援する。 その中で中小企業が飛躍できるように大手企業がプラットホームとして、機能などを提供することを要請。 その流れで、アリババやテンセントの決済がプラットホームとなり様々なサービスが生まれていくことになる。 技術の中ではAIで世界一になれるように、教育や、優秀な人材が集まる支援を積極的に行われた。

第2章 なぜ中国でイノベーションが爆発的に生まれているのか?

モバイル決済がイノベーションの起点

3G回線のインフラが整ったことや、シャオミやファーウェイなどの格安スマホによって、爆発的にモバイルのユーザ数が増えた。 また、国土が広くATMが日本と比べて便利なレベルでATMがなく、クレジットカードの普及も進んでいない。
そのやめ、オンラインでの決済ができないユーザが多かったが、アリペイがその解決になった。

モバイルの移行に伴い、アリペイウォレットを提供開始。急成長の要因は2つある。
1つ目は、6%を超える利息を受け取れるMMFマネー・マーケット・ファンド)の発売(銀行の普通金利は0.35%)によって収益を生む財布として人気を得たこと。
2つ目は、独身の日のキャンペーンで、好調だったアリババのネットショッピングのユーザをモバイルへの誘導が功を奏したこと。

これらのシェアリングエコノミーは、利用者の信用情報の蓄積にも繋がる。
芝麻信用では、決済履歴や資産運用履歴、行動特性などの情報を分析し、ゴマスコアとして信用情報を数値化している。
欧米ではプライバシーが重視されてしばしば問題になるが、中国では利便性をもたらしてくれるなら気にしないぐらいの温度感で社会的にも受け入れられている。

アリペイのおかげで、サービスに必要な本人認証と決済をプラットフォームに任せることで、オフラインの様々なシェアリングエコノミーも普及している。
オフラインで使えるサービスを提供し、モバイル決済を普及させると共に、利用データや信用情報を蓄積させ、そのビッグデータから新しいサービスを提供していく。

データ蓄積によって個人の信用を点数化

アント・フィナンシャルの手掛けるゴマ信用は、取引履歴や支払履歴、行動特性などのデータを分析し、個人の信用力をゴマスコアとして数値化。
ゴマスコアに応じて少額融資を行い、TmallやTaobao等で買い物する際にも使える。
従来の中国人民銀行の信用情報サービスでは、銀行のデータから構築したために半分以上の国民は基礎情報しかないのに対して、ネット企業は様々な情報からスコアリングが行える。

個人情報が企業に利用される形になるが、利用者の殆どは、様々な利便性をもたらしてくれるならあまり気にしないという温度感。

第3章 阿里巴巴(アリババ)集団と騰訊控股(テンセント)――中国版巨大プラットフォーマーの誕生

なぜアリババが成功したのか?

信用情報が未整備で、クレジットカードの保有率の低い中国では決済のコンバージョンが悪く、eBayなどの欧米のスタイルがなじまなかった。
それに対して、アリババはエスクローサービスを中国で最初に導入した。
ジャック・マーの「問題が起きれば、僕が刑務所に行く」という強い決心で開発が急ピッチで進んだ。
いざリリースしても、非銀行であるアリババを不安に思うユーザが多く、不安を払拭するために全額補償のキャンペーンを行った。
さらに、手数料を無料化してeBayと差別化を図った。

独身の日のセールの負荷に耐えられるように、Ocean BaseAliyunを自社で開発し、分散型アーキテクチャに移行して対応した。
これらの技術力を活かし、他社にもアリババクラウドを提供する。

決済手段から生活サービスのプラットフォームへ

ダブル11のオフライン版であるダブル12では、スーパーやレストランなどで半額のキャッシュバックキャンペーンを行い、デジタルに疎い50,60代にリーチすることができた。
決済件数が増えるだけでなく、加盟店はレジ精算時間も大幅に短縮され業務改善にもつながった。

海外展開は、ローカルの企業に出資などして提携を結んで進めた。

微信ウィーチャット)発展史

単なるメッセンジャーから、SNS的な機能を付け加えていき、国内では独占状態になった。
「テンセントが進出する事業には手を出さない」という暗黙のルールができるほど無双状態になる一方で、独占状態に批判が集まるように。
そこでオープン化戦略を取ることにし、サービス提供者向けにユーザとつなげるツールを提供。

  • 購買アカウント
    • 情報発信
  • サービスアカウント
    • 会員管理、販促
  • 企業アカウント
    • 内部管理の効率化、関連企業や顧客とのコミュニケーションの円滑化を支援するSaas

2017年1月には、wechat内で完結しDLも不要なミニプログラムをリリース。

お年玉をwechatで送れる機能では、ゲーム性を取り込み、テレビの人気番組と連動したキャンペーンを行い、ユーザを引き込んだ。
晦日の0〜19時の間で、2000万人が4億回のお年玉のやり取りを行った。

第4章 2強を追う先端技術企業

滴滴出行(DiDi)――本家も飲み込む生命力

滴滴出行は最初は投資家やユーザもおらず、運転手の10数名しかいない状態でスタート。
SNSのクチコミで徐々にユーザ数が増え、優秀なエンジニアを雇って開発を内製にすると、マッチングの効率化等の改善を行い、事業が成長していった。
wechatで決済できるなどして連携を図っていく一方で、アリババが出資する快的打车も順調にユーザ数を伸ばす。
キャンペーン合戦となりお互い大きな赤字を掘り、最終的には合併にいたった。

UBERは中国に進出し、運転手に高い奨励金を出して繋ぎ止めを図る。
真っ向から勝負となったが、CS対応は電話が一般的な中国でメールで対応するなどローカライズできず、細やかな改善を重ねた滴滴出行がシェアを守った。
泥沼の赤字の戦いは、投資家主導で休戦することになり、UBER滴滴出行の5.89%の株式を取得することで幕を閉じた。

フィンテック企業やAIスタートアップの紹介

第5章 急速に進むデジタル化の負の側面

頻発する悪質ネット詐欺

資金を投資家から集めながらも、私的に利用されて資金が回収できなくなった事例等が紹介されていた。

ICOでも詐欺的な問題が発生し、規制による取締が行われた。

羊毛党vsネット企業――テクノロジーを悪用した詐欺集団

セール商品を大量に転売されたり、プロモーションのキャンペーンを不正に受け取るために、架空の取引を発生させるなどの事例が紹介されていた。 犯罪にもAIが応用されて、ツールが販売するなどして不正収入を受け取られてる。

第6章 中国型イノベーションの本質と先端企業との付き合い方――ユニクロ、メルカリの事例

ユニクロの中国戦略

wechatの公式アカウントを広めるために、シェアすればするほど当選確率の上がるキャンペーンを行った。

独身の日は売上が立つが、流通が追いつかない。 そのため独身の日だけ、オンラインとオフラインでセール価格を統一して、オフラインの店舗で受け取れるようにした。